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「どうして言えない?」「相手を傷つけることになると思うので」「君ねえ、傷という単語は病院の中だけで使われるべきもので、素人がメタファーとして使うべきじゃないんだ。心の傷なんて存在しない。あるのは心臓の傷だけだ。それに君はなぜ相手の反応のことばかり考えているんだ」「さあ」「相手のことなど考えても意味がない。相手は相手で、所詮君には理解できないんだ。勝手に想像しているだけだろう。相手ががっかりするだろうとか、悲しむだろうとか。そんなことに何の意味がある?相手のことなどどうでもいい。相手にどう思われているかもどうでもいい。自分が真実だと思うことを正直にそのまま口にするまでの話さ」

多和田葉子『星に仄めかされて』

 才能も勇気も今のところは持ち合わせていないので、仕方なく生きていくために勤めに出ているわけだけれど、社会人として過ごす時間やそれに伴って受ける理不尽に、本当のわたしを壊されているような気がする。休みの日に好きなひとと触れ合いそばにいることで回復しているけれど、働いている時間の方が圧倒的に多いから、いくらわたしを取り戻してもその都度台無しにされる。きれいだと感じるひとは大抵社会の毒を受けていない暮らしをしているのも事実だ。自分を守るために、わたしがきれいでいるために、勤めに出なくても生きていけるように力を磨きたい、と思う。言葉の世界って、色々な解釈があって、そのひとの価値観で選ぶ言葉も変わるから、正解がない。調べていけばいくほど足りないような気がして、延々と調べては書き写す。この時間が苦しくて、とても楽しい。狭い世界に閉じこもって、そこで認められ褒められる自分に満足したくない。もうこれでいいんだって思いたくない。もっと色々なことが知りたいし、もっと遠くへ行きたいと思う。「わたしって大したことないんだ」、この気持ちを大事にしていきたい。 もっと他人を知りたい。でも、自分の思う基準に達していない人にどう接したらいいのかわからない。容姿においても、経験においても。昨日田舎のスーパーの駐車場で手を汚さないようにして2人で食べたマックのポテトが美味しかった。